北海道旅行
北海道の雪のニュースが連日届くようになりました。
季節は冬に向かってまっしぐらなようです。
そんな北海道に、ちょうど1カ月ほど前、妻と二人で旅行に行ってきました。
「北の国から」ファンであるボク達は、若い頃から何度か北海道には行っているのですが、秋には一度も訪れたことがなかったので、紅葉の時期を狙って行ってきました。
久しぶりの北海道は、やっぱり素敵でした。
雄大な景色、おいしい食べ物、心に残るシーンはいくつもあったのですが、妻の印象に一番残ったのは美瑛の丘のようでした。
旅行二日目のその日は、雲が多い一日で、さっと太陽の光が差し込んだかと思うと、今度はパラパラと小雨が降るような安定しない天気でした。
僕たちが美瑛の丘に到着したのは、もう夕方近い時間でした。
丘と林を一直線に切り刻んだ急こう配の道路を上りきると、360度のパノラマが広がっていました。
西の方は晴れていますが、反対の東の方は曇っています。
見ると丘を激しく濡らす雨雲が迫ってくるのが見えます。
冷たい風も吹き始め、もうじき、僕たちの立っている場所も激しい雨に包まれることでしょう。
僕たちより遅れてタクシーでやってきた観光客(写真の女性)が、タクシーの運転手に呼び戻され、写真を1、2枚撮っただけであわただしく帰っていきます。
僕たちの他に誰も人影はありません。
妻も盛んにボクを呼んでいますが、写真を撮っていたボクはしばらく妻の声を無視していました。
嵐の景色も面白いとも思ったのですが、ずぶ濡れになるのも嫌なのでしばらく写真を撮ってから車内に戻りました。
「もう、なんですぐに帰ってきてくれないの」
一足早く戻っていた妻が半分怒って言いました。
「ここは、クマの寝床が近いって看板に書いてあったよ。朝夕にクマが目撃されてるって。それで、クマが近くまでくると、獣の匂いがしてくるから、獣の匂いがしてきたら注意してほしいって。急に獣の匂い、してきたでしょ!近くにクマが来たと思って、一生懸命呼んでいるのに全然帰ってこないんだもん!」
なるほど、それであんなに一生懸命ボクを呼んでいたんですね。
確かに、雨の近づく風に、動物の匂いが混じり始めたのは間違いありません。
ですがボクは、それはきっと近くの牧場の匂いなんだろうと思っていました。
「あれは、絶対クマだよ」
帰り道の車内でも妻は繰り返します。
「タクシーの運転手もお客さんに危険だからって呼び掛けていたじゃない」
「そんなこと言っていた?」
まだ半信半疑のボクに「言ってたよ」ともどかしそうに言います。
だから女性はあんなに急いで帰っていったのかな?
そうとも思いますが、今となっては事の真偽は分かりません。
ですが、あの美瑛の丘の景色は強烈に妻の記憶に残ったようです。
「わたし、人生の最期の一瞬に、あの景色が蘇るかもしれない」
妻は言います。
「夕暮れの美瑛の丘の上、雨雲がすごい勢いで近づいてくる中に一人で立っている姿、急に匂ってきた獣の匂い、そんなシーンが人生の最期に蘇ってくるかも」
妻の言葉を聞きながら、ボクは思います。
最期に蘇ってくるのは景色なんかじゃなくて、おいしくて次の日も再購入した小樽のお団子なんじゃないのかな…